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洞爺湖の語源 [ 北海道と食]

北海道の地名はアイヌ語に由来するものが多いですが、洞爺湖の名前もアイヌ語に由来します。しかしその解釈について、誤った情報がwebではたくさん紹介されています。

例えば「洞爺」はアイヌ語の「トー・ヤ」で、「湖の丘」のことだ、というのがその代表です。「湖の丘」って何のこと? 意味不明の解釈です。

 

■トーヤとは

まずは正解を書きましょう。

「洞爺」は「トー・ヤ」 To - ya です。
to は「トー」でも「ト」でもいいのですが、その意味は「沼、湖」です。この解釈を間違うことはないようです。

問題は ya です。
アイヌ語では「yaという語は、「沖」に対する「おか(陸)」をいい、「岸」の意味にもなる語」なのです(知里真志保『アイヌ語入門』(北海道出版企画センター、初版1956年、復刻1985年、8ページ)。

だからトー・ヤの意味は「湖の・岸」、すなわち「湖畔」のことです。
しかもどこかの湖畔じゃなくて、湖畔一般のことです。山田秀三氏の『北海道の地名』には「普通名詞みたいなもので、湖岸ならどこでもトーヤであろう。」(1984年、北海道新聞社、411ページ)と書いてあります。

ところがあちこちで、 ya を「丘」とか「岡」とかに解釈していて、トーヤは「湖の丘」だなどと解釈されています。この例のほかにも、「湖・丘」、「湖のおか」、「沼・岸」などが出てきます。これはみな全く誤った解釈です。
そもそも考えてみてください。「湖の丘」って何ですか? まったく意味不明ですよ。

中には「湖水に面する肥沃な丘」というのもあります。「肥沃な」なんていう解釈まで加わっています。もちろん原語の「トーヤ」にそんな意味はありません。

こんな誤りが未だにまかり通っているのは、実は、かつて「ヤ」を「岡」とか「丘」とかに解釈した有名な本があったからです。
しかしまだにその誤訳が訂正されないままに幅をきかしている、ずいぶん以前に正しい解釈が示されているのに、いまだに正そうとしない。これはアイヌ語をいい加減に扱っている人達が大勢いるということです。ここに問題があります。
おかげでそういう誤訳を孫引きするサイトが跡を絶たない。

正解が載っていたのは次のサイトくらいでしょうか。
北海道のアイヌ語地名解説」、「地名の中のアイヌ語

■トーヤ湖

以上は「トーヤ」の解釈です。では「トーヤ湖」の意味はなんでしょうか。
「トーヤ」が「湖畔」だから、「トーヤ湖」は「湖畔の湖」なのか?

まさかぁ! そんな言葉はありえません。

正解は、「トーヤ湖」なる名前はアイヌ語には存在せず、和人が勝手につけた名前だ、ということです。

知里真志保氏の「洞爺湖の伝説」には、「洞爺湖の名は和人が附けたものである。アイヌはこれを唯トー(湖)と呼んでいた。それが洞爺湖となったのは、この湖畔に洞爺という村があったからである。」(『和人は舟を食う』2000年、北海道出版企画センター)とあります。

山田氏の先の本によると次のようなことが書いてあります。
洞爺湖は他の大きな湖沼と同じく、ただ「トー」と呼ばれていたようだ。松浦武四郎の『後方羊蹄日誌』の付図には南岸と北岸に「トウヤ」という名があり、挿絵では東岸がメナシ・トーヤ(東湖畔)となっている。これをとって、和人が洞爺湖と呼ぶようになった。
他の土地の湖も、和人はただトーでは困るので、屈斜路湖はクッチャロ(湖口)、支笏湖はシコッ(千歳川のこと)、濤沸湖(とうふつこ)はトープッ(湖口)というように、何かをとってその湖の名にした。

洞爺湖などという名は本来はなくて、「トー(湖)」しかなかった。そこで「トーヤ(湖畔)」という名をとって和人が「洞爺湖」とした、というわけです。

洞爺湖を「丘の上にある湖」という意味だとしているサイトがありありました。トーヤは「湖の丘」だから、トーヤ湖は「丘の上にある湖」ということでしょうか? これも誤訳に惑わされた結果でしょう。

最後に、洞爺湖は「キムン・トー(山奥の・湖)」とも呼ばれたらしいですが、これは「何か特別の場合の称だろう。」というのが、山田氏の説明です。

追伸
松浦武四郎が書いた『後方羊蹄日誌』。この「後方羊蹄」は「シリベシ」と読みます。羊蹄山はこれを縮めた名称です。この話は、別の機会に触れましょう。


 
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