ンブシ豚(煮しめ豚) [ 沖縄と食]
味噌煮豚
沖縄の客膳料理である「五段の御取持」のことを「五段御取持」の角煮とラフテーで紹介しました。
新島正子『琉球料理』(1971年、新島料理学院発行)によると、その本膳である二の膳に「ンブシ豚」があります。
写真のようにラフテーそっくりです。でもこれはラフテーじゃないんです。「ンブシ豚」です。
沖縄で「ンブシ」というと味噌煮込みなんですが、これは醤油の煮しめです。なんだかちょっとわかりにくいですが・・・。
その「ンブシ豚」のレシピは次のように書かれています。
■ンブシ豚(煮〆豚)
7センチ角の豚三枚肉をしょうゆで煮〆め、皮に斜め十文字に包丁目を入れ、その上に赤く染めた落花生を1個のせます。
この料理はしょうゆの煮しめです。醤油しか書いてませんが、鰹だしを入れたんじゃないかと思いますが。
そのンブシ豚が写真のような出来になるのです。
見栄えでちょっと変わっているのが、包丁目が十文字に入っていて、上に赤い落花生が乗っていることです。
客膳料理の本式はこうなっているんです。新島さんは伝統的な「五段の御取持」を再現した人なのですが、その中にンブシ豚を再現しました。そしてその形が、十字の包丁目と赤い落花生です。
実はこの仕上げは、美栄のサイトのラフテーや雑誌『カラカラ』で城間健氏がつくった客膳料理のラフテーも、まったく同じなんです。
新島さんが再現した「五段の御取持」での形が、古波蔵登美氏(美栄の初代店主)、城間健氏(美栄の元料理長、現在赤間風店主)へと引き継がれているということです。ただしそれらは、ンブシ豚ではなくてラフテーです。
ラフテーとどこが違うかっていうと・・・
ラフテーの作り方は、ラフテーの作り方を見て下さい。
違いは煮しめる前に茹でこぼさないこと、砂糖を使わないこと、そして泡盛を使わないことです。この違いはどう考えたらいいのかなぁ。
ところでもう1つ不思議なことがあります。この料理はンブシ豚だと命名されています。ところが沖縄で「ンブシ」というと味噌煮込みのはずなんです。
「ンブシー」については、その本の別のところに説明があります。
「ンブシーというのは、豆腐、豚肉、季節の野菜などを、豚だしと味噌で煮込んだもので、チャンプルーと並んで代表的な庶民料理です。」(150ページ)
ね。ンブシーは「味噌煮込み」なんです。これが沖縄の普通の理解でしょう。ただし「煮込み」と言うと汁が多い感じですけど、ンブシは、汁を煮干してしまい、「キンピラ」みたいに汁を飛ばしてしまいます。
このンブシは庶民料理です。
ここでなぜ、味噌なのかについて、コメントします。
沖縄の調味料は、もともとは塩と味噌なんです。塩は買うんでしょうが、味噌は自家製だったんです。では醤油はというと、これは買うもので、沖縄では非常に貴重な調味料でした。首里や那覇でしか買えませんでした。だから煮込みは醤油じゃなくて、味噌煮込みになるんです。
ところが「五段の御取持」のンブシ豚は、醤油の煮しめです。なのになぜ「ンブシ」と呼ぶのか?ここは不思議です。
たぶん「ンブシ」は煮干し(にほし)が転訛したんじゃないでしょうか。もともと味噌の意味はないんだけど、庶民は味噌を使ったので、味噌煮込みがンブシと呼ばれるのでしょう。だから意味からいうと、醤油で煮込んでもンブシということなのでしょうか。味噌で煮込むと庶民料理ですが、醤油で煮込むと高級になるってことでしょう。
沖縄では清明祭などの重箱料理には、豚の醤油煮込みが使われます。これはまた次回に・・・。
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