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「月出里」がなぜ「すだち」なの?その由来をさぐる [ 地方文化]

茨城県稲敷市(旧江戸崎町)に「月出里」というところがあります。

この地名は、なんと読むでしょうか?
つきでのさと」?
ブッブー!

実はこれ、全国難解地名の1つ。

なんと「すだち」と読むんですって。

なんでー!w( ̄▽ ̄;)w
・・・と叫びたくなる地名です。

今日の記事は、この「なんで?」を追求したものです。
月出里(すだち)の由来はなんだろう?

しかしなぜ突然にこの地名を取り上げたか?

昨日の記事をご覧になった方はもうお分かりですよね。
食堂の店名が、この地名を使った「月出里(すだち)」さんだったんです。
それで、なんで「月出里」が「すだち」なのか?を調べてみた、というわけ。

 

「月出(すだち)」と「巣立ち」の語呂合わせ

月の出る夜に渡り鳥が一斉に飛び立つから、なんて説明がネットにいっぱいあります。
なかなかロマンチックな由来です。
でもこれは、「月出」と「巣立ち」とを語呂合わせしようとした、後付けの理屈でしょう。
真実は、そんな後知恵の語呂合わせにはありません。

 

◆月出の読み:ついたち⇒ちたち⇒すたち

「月出里」は、江戸時代には「月出」という地名で、これが「すたち」と呼ばれていました。

だから、どうして「月出=すたち」なのか?というのがまず問題です。

「角川日本地名大辞典」には、こんな説明があります。
「すたち」の読みについて『新編常陸国史』(1969年)を引用して「「出ヲタチトヨメルハ、メデタシ、月出ヲツイタチトヨメルタチト、ヒトツナリ,又按ズルニ、ツキノ反音チナリ」としてチタチの音がスタチに転化したとある。」としています。

引用がカタカナで読みにくいので、現代語に直しましょう。
「出」を「たち」読むのはすばらしい、「月出」を「ついたち」を読む場合の「たち」と同じだ。考えてみると「つき」の反音は「ち」である。

※「つき」の反音が「ち」だとはこういうこと。
「つ」は「Tu」、「き」は「Ki」です。
それで「Tu(つ)」の子音と「Ki(き)」の母音を合わせると「Ti(ち)」だ、と言っているんです。
ただしその前段で、「月」は「つい」と読んでいますから、「つき」の反音が「ち」だと書いてあるのは誤記で、「つい」の反音が「ち」だと書くべきと思います。

※「つき」の反音が「ち」だと書いてありますけど、これは誤記でしょう。
「ついたち」の「つい」の反音が「ち」です。
た(T)行の「ち」は、本来は「てぃ(Ti)」なんです。

だから「つい(Tui)」が「てぃ(Ti)=ち」になるわけです。 

「月出」を「ついたち」と読んで、それが「ちたち」になり、さらに「すたち」になった、という説明です。
この説明は的を得ていると思います。

でも「月出」がなんで「ついたち」なのか?

「ついたち」とは月初めの「一日」のこと。
ここがまたわからない。
次にこの点を詳しく探索しましょう。

 

◆月出の意味:朏=三日月

中山満葉『筑波地方の地名の意味』(2000年、筑波書林)には、こうあります。
 「月出里の「月出」は「(ひ)」のことで、「三日月」。やっと新月が現れ光彩が放たれ始めたさまで、月出里はこういう月を由縁にしている地名であれば、月讀命神を祀っているのではと思われる。その祭神をもって地名にしたのだと思うが、つくば市吉瀬の三日月神社が祀っているのもやはりこの月讀命である。三日月神社は言いかえれば朏神社であり、この月出里も書きかえれば三日月の里、朏の里、朏里(ひり)である。」

産経ニュース「三日月に由来? ウサギの伝承も 稲敷市月出里(すだち)」は、同書を引用してこう書きます。
「「」は「みかづき」とも読み、「三日月の里」が「朏の里」と転化し、「月出里」になったのではないかとしている。(中略)月の満ち欠けで月日の長さを決める太陰暦では、新たな月に入ってから初めて見える月は三日月だ。そのことから三日月のことを新月とも呼ぶ。」

中山氏は「朏里(ひり)」から地名の意味をさぐりますが、「月出里」が元は「月出」だったことを見落としています。

興味深いことは、「月出」は「(ひ)」で、「三日月(みかづき)」だということ。
そして三日月のことを新月とも呼んだということです。
ここがとっても重要と思います。

「月出」=「朏」=「三日月」で、しかも三日月=新月だったというわけ。
これはどういうことなのか?さらに説明しましょう。

 

◆ついたち=月立ち=新月=朔日

先に紹介したように、「角川日本地名大辞典」は、「月出」は「ついたち」と読むと説明します。

まずこの「ついたち」とは何か?

旧暦では、新月の日が各月の一日(最初の日)でした
月の最初の日が「月立ち(つきたち)」で、それが音韻変化して「ついたち」になりました。
だから「一日」を「ついたち」と読むようになったんです。

ところで、新月のことを「朔日」ともいいます。
これはどういう意味かというと・・・

新月は月が見えないわけですから、今夜が新月だ、とは確認しにくい。
それで旧暦では、目視できる三日月の日を基準にして、三日月から遡って新月を求めました
だから新月を「朔日」と言ったのです。

 

◆月出=三日月=新月=ついたち

新月は人には見えない。見えるようになるのは三日月からです。
それで古い時期には、三日月が新月とされていました。
産経ニュースの引用にあった「三日月のことを新月とも呼ぶ」というのは、このことです。

それで「月出」は「三日月」のことで、それが新月を意味していた。
だから「月出」を「ついたち」と読む、という「角川日本地名大辞典」の説明は的を得ていると思います。

というわけで、月出=三日月=「ついたち」で、それが「すたち」になり、「すだち」になった。
これが月出=すだちの由来です。
そして明治以降に「月出」が「月出里」になった、というわけです。

 

こうして「月出」を「すだち」と読む由来はわかりました。

でも、なぜ稲敷市(旧江戸崎町)のこの地域が「月出」=三日月となったかは、よくわからない。

『筑波地方の地名の意味』で中山氏は、月讀命神を祀っているのではないか、と書いています。
現在、月出里には2つの鹿島神社がありますが、その1つが以前は月出神社で、祭神が月読命だったのかもしれない。(神社名に由来する地名)
あるいは、開墾した地形が三日月型だったからかも?(地形に由来する地名)
などと考えています。


 
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コメント 2

stk

私の実家は江戸崎です。月出里、読みは知っていました。

とんちゃんさんは牛久市在住なんですね。
稀勢の里で盛り上がっていますね。
by stk (2017-01-26 18:31) 

とんちゃん

> stkさん
もう、稀勢の里ムードで大変。
市内でパレードがあると思うので、ぜひみたいです。
by とんちゃん (2017-01-26 18:56) 

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