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豚肉・鶏肉の成型肉の実際と表示のガイドラインについて(改正) [食文化]

外食で食べたカツ丼の肉が「成型肉」か否か、ということを記事で触れました。
 ⇒ジャンボかつ丼って、どんなだ?:http://onhome.blog.so-net.ne.jp/2016-07-09

するとその記事に「そもそも、豚や鶏で成型肉なんて存在しません。」というコメントをいただきました。牛肉には成型肉が存在するけど、豚肉や鶏肉には成型肉なんてない、というご指摘です。
あらま、そうなんでしょうか?(*゚Д゚*)ェ…

ネットで「成型肉」についてググってみると、wikipediaの記事、「まとめ記事」や質問サイトの記事がたくさんあります。
しかしそれらの情報がまた、いいかげんだったり、古かったりしてるんです。
これではいかん。(≧ヘ≦)

なので、成型肉について記事にしました。
 ⇒豚肉・鶏肉の成型肉の実際と表示のガイドラインについて

ところがいかんせん、その記事が不十分だったんです。(反省)
というわけで、ここに新しい記事にいたします。


 

|| 成型肉とは ||


まず、「成型肉」とはなにか。
これがwikipediaの記事を含めて、ほとんどがいいかげん。

「成型肉」とは、小さな肉片を接着剤等とともに「型」に入れて、成型した肉です。

そのほかに次のような処理を行った「加工肉」があります。

インジェクション(脂肪注入肉):針を肉に入れて脂肪等を注入するもの
テンダライズ:細い針を肉に入れて筋や繊維を切断するもの
タンブリング:肉の内部まで調味液を浸み込ませるもの
 (資料:全国食肉公正取引協議会『お肉の表示ハンドブック2015』
   ⇒https://www.ajmic.or.jp/kumiai/2015pdf/2015handbook.pdf


wikipediaはインジェクション(脂肪注入肉)も成型肉だとしていますが、これは誤りです。

 

 

|| 豚肉・鶏肉の成型肉販売の実際 ||


成型肉はどのように販売されているのか。

牛肉の成型肉スーパーでも「サイコロステーキ」などとして販売されています。
しかし豚肉や鶏肉の成型肉はスーパーでは販売されていないようです。

 

◆業務用の成型肉の販売

 

豚肉や鶏肉の成型肉は、スーパーではなく、外食や弁当などの業務向けに販売されています。
ネットでも以下のように「成型肉のとんかつ」や「成型肉のチキンカツ」が販売されています。

・成型肉のとんかつ
 オグラフーズ「とんかつ」
 米久「柔らかいローストンカツ」(キャッシュ)
 業者不明「柔らかロースとんかつ」

・成型肉のチキンカツ、串カツ
 トリセンフーズ

 

豚肉(とんかつ等)ではインジェクション処理した肉が多いようです。
でもインジェクションは成型肉じゃありません。

鶏肉では、もも肉などをミンチにして白い胸肉やささみみたいなナゲットにする加工をしてます。
安いチキンナゲットはこれが多い。
でもこれもミンチだから成型肉じゃありません。

 

◆外食での成型肉の販売 

 

外食店での成型肉については、河岸宏和『「外食の裏側」を見抜くプロの全スキル、教えます』(2014年、東洋経済新報社)がとりあげています。

激安ステーキ店のステーキ、ファミレスや持ち帰り弁当のトンカツ、安い焼肉店の焼肉(カルビ等)、激安食べ放題店や立ち食いそば店のカツ丼、激安カレー店のカツカレーがその例です。

「外食の裏側」を見抜くプロの全スキル、教えます。

「外食の裏側」を見抜くプロの全スキル、教えます。

  • 作者: 河岸 宏和
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2014/05/09
  • メディア: 単行本

 

 

 

|| ココイチのビーフカツは成型肉
   ・・・これって違法なの? ||


2015年1月、ココイチの廃棄されたビーフカツを廃棄業者が転売して、スーパーで売られていた、という事件がありました。

なんとそのココイチのビーフカツが成型肉である、ということを5月に中日新聞が取り上げました。
 ⇒2チャンネル「ビーフカツ、実は成型肉 CoCo壱番屋が非表示、専門家も賛否」

ココイチの「ビーフカツ」の肉は牛のバラ肉とモモ肉を使った成型肉だ、と同社が認めています。

 

問題は、成型肉であることを表示しないと違法なのかどうか?ということ。

ココイチ店広報担当者は、「表示していなくて問題になった前例はない」と説明しています。

行政の対応も書かれています。
愛知県は、「ステーキ」というメニューだと『優良誤認』させるの「成型肉」の表示が必要だが、それ以外の成型肉はメニューに表示しなくてもいいのでは、との認識。
消費者庁は、「優良誤認」とは、実際より著しく良いと誤解させる表示のことで、景品表示法に違反する。しかし「優良誤認かは、飲食店の種類や価格も考慮し判断する。個別の話には答えられない」と明確な回答を避ける。

 

成型肉を「ステーキ」と表示すると景品表示法に違反だが、それ以外は「成型肉」と表示しなくともいい、というわけです。

 

記事は、成型肉を「ステーキ」として販売した大手チェーンが2005年に公正取引委員会から排除命令を受けたこと、2013年に各地のホテルや旅館で同様の不当表示が発覚したことも書いてあります。

うーん、突っ込み不足かな。

成型肉の表示に関する規制について整理しましょう。

 

|| 成型肉等の表示に関する規制 ||

 

◆経緯

外食事業者での「成型肉」や「脂肪注入肉」の表示については、次のような経過でガイドラインが示されています。
中日新聞の記事に2005年と2013年のことが書かれています。まずはそこから。

  • 2005年11月15日、成型肉について公正取引委員会がに「景品表示法」もとづいて、レストランチェーン「フォルクス(現社名 どん)」に対して排除命令を行いました。⇒http://archive.fo/PAzn3

成型肉を「ビーフステーキ」,「ひとくちビーフステーキ」と表示したことが違法だ、というのです。

理由は、「ステーキ」は、牛の生肉の切り身を焼いたものと消費者は考えるから、「牛の成型肉を用いた料理の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示すことにより、不当に顧客を誘引し,公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示をしていた」というものです。
これが「優良誤認」の意味するところです。

「成型肉」を「ステーキ」と表示してはいけない、ということです。 

 

これ以外に違法とされたものには以下のような例があります。

◇公正取引委員会

  • 2009年8月13日:中国産パスチャライズキャビアを「ロシア フレッシュキャビア」と販売。
  • 2008年12月16日:前沢牛でないのに「特選前沢牛サーロインステーキ」「特選前沢牛フィレステーキ」と提供。
    同上:オーガニック野菜でないものを「オーガニック野菜」として提供。
    同上:カナダ産ボタンエビを「北海道産ボタンエビ」として提供。
  • 2009年6月22日:「○○県に所在する契約農家が生産した天日により乾燥させた米」として、そうでないものを提供。

◇消費者庁

  • 2010年12月9日:ブロイラーを「京地鶏」として提供。
  • 2011年2月22日:おせち料理で、バナメイ海老を「才巻き海老」、ランプフィッシュの卵を「キャビア」、わかさぎを「鰊」、岩手県産の鴨肉を「フランス産シャラン鴨」、アメリカ産の黒豚を「鹿児島産黒豚」などと提供。
  • 2011年3月4日:インジェクション処理した肉(牛脂注入肉)を「霜降サーロインステーキ」と提供。

 

中国産を「ロシア産」に、パスチャライズを「フレッシュ」に、前沢牛でないのに「前沢牛」に、オーガニックでないのに「オーガニック」に、カナダ産を「北海道産」に、ブロイラーを「京地鶏」になどなど、中身と表示が異なっているから不当表示なのです。

「霜降りサーロインステーキ」については、「霜降り」は一定の飼育方法により脂肪が細かく交雑した状態になった牛肉が用いられていると一般消費者は理解するから、不当表示だというわけ。

でも「インジェクション処理した肉(牛脂注入肉)」を「ステーキ」と表示したことは不当表示とはされていません。


 

◆ガイドラインの公表へ

2013年になって消費者庁はメニュー表示改善に関して積極的な対応をします。
 ⇒消費者庁 食品表示等問題対策専用ページ

2013年11月以降にホテル・旅館、百貨店の団体に料理の表示に関する指導を行います。
2013年11月6日に、ホテル関係団体(全日本シティホテル連盟、日本ホテル協会、日本旅館協会)に「ホテルのメニュー表示に係る関係団体への要請について」を、11月8日に全旅連(全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会)「旅館・ホテルのメニュー表示等に係る関係団体への要請について」を、また日本百貨店協会に「百貨店における料理等の表示に係る関係団体への要請について」を指導しました。

2013年11月11日に、消費者庁を中心にして各省と「食品表示等問題関係府省庁等会議」を設置して、メニューや料理での表示について検討を行い、同会議は12月9日に「食品表示等の適正化について」を公表します。

 

そして消費者庁は2014年3月28日、ガイドライン(「メニュー・料理等の食品表示に係る景品表示法上の考え方について」)を公表。 ⇒http://www.caa.go.jp/representation/syokuhyou/

 

2014年6月に景品表示法が改正され、12月に施行されましす。 
この改正では、国が指針を示すことになります。
そこで2014年11月14日に、同法にもとづく指針(「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」を示しました。⇒改正景品表示法に基づく政令・指針専用ページ

また、都道府県知事が措置命令(行政処分)を行うことになりました。
現在は消費者庁ではなく、都道府県が業者に対して実際の行政処分を行うようになっています。

 

|| 食肉加工業者と外食業者での表示規制の違い ||

 

 

◆消費者庁がガイドラインを制定した理由

こうして2013年に消費者庁がメニュー表示の改善を積極化し、景品表示法に関するガイドラインを示したのはなぜか?

まず2013年6月に食品表示法が公布されたためでしょう。
食品衛生法は、JAS法、食品衛生法、健康増進法に分割されていた食品表示に関する規定を整理・統合したものですが、この法律は原材料名、栄養表示、アレルゲン等の表示を一括して規定しています。

追記:
食品表示法の制定によって「食品表示義務」が定められて、消費者等に販売される全ての食品に食品表示が義務付けられました。
表示をする者は食品関連事業者で、それは生産者から最終消費者へ直接販売する小売業者までの流通過程の全ての者が該当し、海外から畜産物を輸入する輸入業者も表示義務があります。

しかし、設備を設けて飲食させる場合、容器包装に入れずに生産地で販売する場合又は容器包装に入れずに不特定若しくは多数の者に対して譲渡する場合(無償譲渡)には、生食用牛肉の注意喚起表示を除いて、表示義務はありません 
こうして外食業者は、生食用牛肉の注意喚起表示以外は、食品表示義務による表示義務がありません

なお、生食用牛肉の注意喚起表示とは、一般的に食肉の生食は食中毒のリスクがあること、子供・高齢者その他食中毒に対する抵抗力の弱い者は食肉の生食を控えるべきことです。
「早わかり食品表示ガイド」消費者庁

 

ガイドラインによって、成型肉やインジェクション等の処理をした食肉には調理に関して「注意表示」をするようになりました。
「あらかじめ処理をしていますので、中心部まで十分に加熱してください。」などという表示です。

しかしこれは食肉の加熱処理の仕方の注意であって、その食肉が「成型肉」等であることは明示していません。

そこで景品表示法による表示の規制が必要になってくる。
しかし同法で規制できるのは不当表示(「優良誤認」)で、「成型肉」等の表示を義務づけているわけではありません。
ではどうやって規制するのか?

 

◆食肉事業者

食肉販売業者(加工、卸小売)は、1995年に表示ルール「食肉の表示に関する公正競争規約」を定めて、「成型肉」や「脂肪注入肉」の表示を業界として自主規制しています。
先に引用した全国食肉公正取引協議会『お肉の表示ハンドブック2015』がそれです。
 ⇒全国食肉公正取引協議会『お肉の表示ハンドブック2015』(pdf)

だからネットでも成型肉等の表示がちゃんとあるんです。

 

◆外食での表示のガイドライン

ところが!
外食ではそのルール(公正競争規約)がありません。
業界がまとまっていないからでしょう。
だから消費者庁がルールとなるガイドラインを示した、ということでしょう。

 

|| とんかつ、チキンカツの成型肉表示は? ||

 

 

◆ガイドラインでの加工肉の扱い

 

ではそのガイドラインの中で、加工肉はどう表示するべきとされているのか?

  • 「ステーキ」や「ビーフステーキ」という表示は、牛の生肉の切り身を焼いた料理だと一般消費者が誤認するので、「成型肉」を「ステーキ」と表示する場合には「成型肉使用」と表示せよ。
  • 霜降りビーフステーキ」、「さし入りビーフステーキ」という表示は、一定の飼育方法によって脂肪が細かく交雑した状態の牛の生肉の切り身を焼いたものであると誤認するので、「霜降りビーフステーキ」と表示する場合には「牛脂注入加工肉使用」等と表示せよ。

「ステーキ」という表示は生肉の切り身だと誤認するから併せて「成型肉使用」と表示せよ。
「霜降り」「さし入り」は、飼育方法による相違だから、人工的な霜降りは「インジェクション加工肉使用」等と併せて表示せよ。
・・・というわけです。

 

◆「ビーフかつ」の表示はいいのか?

 

では「ビーフかつ」という表示はいいのでしょうか?

ココイチの「ビーフカツ」の例を思い出してください。

成型肉を「ステーキ」と表示すると「優良誤認」で違法ですが、そうでなければ表示しなくてもいい、という愛知県。
「表示していなくて問題になった前例はない」と説明するココイチ。

成型肉を「ビーフ」とか「カツ」とか表示しても違法ではない、セーフ!というわけです。

「優良誤認か否かは、飲食店の種類や価格も考慮し判断する。個別の話には答えられない、と消費者庁は明確な回答を避けた」と記事にありますけど、セーフだということでしょう。

 

◆「とんかつ」、「チキンカツ」の表示はいいのか?

「ビーフカツ」でもセーフですから、成型肉を「とんかつ」や「チキンカツ」と表示してもセーフ。
豚肉の場合、「ロースとんかつ」と表示してもセーフでしょう。

「優良誤認」でなければセーフということでは、成型肉もインジェクション肉も表示しなくてOKということになります。

 

◆消費者の立場に立った基準を

消費者庁には、「景品表示法」に関する情報提供窓口があります。
 ⇒消費者庁 景品表示法の相談・被疑情報の受付窓口
  :http://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/contact/

○○レストランが提供する「とんかつ」は成型肉であることを表示していないので不適切だ、と訴えてみるしかないな。
訴えても「違法ではない」と判断されておしまいかな。

違法性ではなく、消費者への適切な情報提供のために、業界団体でしっかりした基準をつくってほしいです。


 
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まつ

食品表示基準 抜粋
冷凍食品 冷凍カツレツ類には 明確な基準があります
冷凍カツレツ類の定義
冷凍フライのうち食肉(細切し、又はすりつぶしたものを除く。)
をフライ種としたものをいう。
これによれば 冷凍食品 冷凍カツレツ類で販売するには
加工肉(成型肉 張り合わせ肉 脂身注入肉などは)はNGになります。
by まつ (2020-02-27 13:23) 

とんちゃん

> まつさん
冷凍カツレツ等の加工食品についてはご指摘のとおりです。
ありがとうございます。
しかしこの記事は、「加工業者」が一般消費者用や業務用に製造・販売している加工食品ではなく、「外食業者」が飲食店で提供する料理のことを書いています。
外食業者に対しては、食品表示基準のうち生食用牛肉の注意喚起に関する表示基準は適用されますが、それ以外のこと、例えば成型肉の表示は適用外になっていませんか?
そのことをこの記事では問題視しています。
by とんちゃん (2020-02-28 07:17) 

とんちゃん

品質表示基準について、追記しました。
by とんちゃん (2020-03-05 12:35) 

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