インド料理店のサフランライスの謎 [食文化]
日本のインド料理店では黄色いライスを出す店が多い。
そしてその黄色いライスは「サフランライス」と呼ばれることが多い。
しかしサフランは非常に高価だから、実際にはその代わりにターメリック(ウコン)を使った「ターメリックライス」を出す店が一般的だ、と言われる。
しかし素朴な疑問がわきます。
黄色いライスは、本来は「サフランライス」で、「ターメリックライス」はその代用品、なのだろうか?
そもそもインド料理店では、なぜ白いライスじゃなく、黄色いライスを出すのだろうか?
こうした疑問に答えを出す、というのが今回の記事です。
とはいえ、インドに行ったこともないヤツが書くことですから、どこまで本当なのか怪しいものですが。
※追記
インドにはサフランライス/イエローライスと言われるものがあります。それは各種のハーブを加えサフランやターメリックで色付けしたライスですが、インドではサフランライス=イエローライスと捉えられています。
この記事はそれについて言及せず不十分なので、近いうちに改稿するつもりです。
インドのライスは黄色いのか? |
結論を先に言うと。
インドでは、カレーと食べるライスは白いライスが普通。
サフラン(あるいはターメリック)を加えた黄色いライスは特別な料理です。
1つは炊き込みご飯タイプのプラオ、ビリヤニ。
もう1つは混ぜご飯タイプのレモンライス、ミティチャワル、トマトライス、タマリンドライスなど。
(参考:「南インドの黄色い混ぜご飯「レモンライス」」)
黄色いライスは日本独自 |
実は、カレーを黄色いライスと食べるのは日本独特なのです。
なぜそんなことになったのか。
日本でのカレーの歴史を簡単に見てみましょう。
◆イギリス式カレー
カレーは明治時代にイギリス経由で日本に入ってきた。
イギリスでは18世紀の終わりごろC&B社製のカレー粉が作られ、それが日本にも入ってくる。明治の終わりには日本製のカレー粉も作られる。
カレー粉を使って作られるカレーは、小麦粉を入れてとろみをつけたカレーです。
そのカレーをライスにかけたライスカレーが広まる。
現在でも洋食店や家庭のカレーライスの基本です。
◆新宿中村屋のインドカレー
1927年(昭和2年)に新宿中村屋が喫茶部(レストラン)を開設したときに「純印度式カリー・ライス」を発売した。インド人の元亡命者ボースが指導したもので、これが日本最初のインドカレーです。ボースは東インドのベンガル地方出身ですが、中村屋のカレーはバターやヨーグルトを使った北インドのカレーのようです。
当初は、インディカ米を使用したスパイスが効いたカレーで、お肉は骨付きの鶏肉だったため、日本人に馴染まなかった。それで米を日本米にすると、高価なのに人気を博した。このときのライスは白飯です。
◆日本初の本格インドカレー
日本初の本格インド料理店は1949年(昭和24年)創業の「ナイルレストラン」です。
同店の名物料理ムルギーランチのライスは、日本米を使った黄色いターメリックライスです。
ナイルレストランの初代が、なぜターメリックライスを出したのかはわかりません。
カレーライスは明治時代から日本にあったもの。何か目新しいものをと考え、黄色いターメリックライスを出したのではないでしょうか。
この黄色いプレーンライスを他店も真似するようになったのだと思いますが、その時期はもっと後のことらしい。
◆インド料理店でのライス
1960年代、70年代に本格的なインド料理店が次々に開店します。
それらがどんなライスを提供しているのか、ググってみました。
デリー:1956年、日本人が湯島に創業したインド、パキスタン料理店。現在、銀座店でサフランを使ったサフランライスを提供しているが、それは1980年代になってかららしい。
アジャンタ:南インド出身のインド人が1957年に喫茶店として創業し、1961年にインド料理店に。白いライスが基本らしく、後年にサフランライス(ターメリックライス?)がメニューになったようです。
マハラジャ:1968年に新宿高野に創業した北インド料理店。(現在の経営者はサムラートの経営者。)日本米の白いライスが基本で、ターメリックライスもある。
アショカ:1968年に六本木に創業の北インド料理。ナンを提供し、カレーにナンというスタイルの発祥店。(現在、直営店は新宿のみで、大阪・京都は別経営。)サフランライスがあるが、当初は無かったと思えます。
ザ・タージ:1974年赤坂見附に創業。オーナーはインド系の食品会社。北インドと南インドの料理を提供。現在は日本米のサフランライス(ターメリックライス?)を提供している。
モティ:1978年に六本木に創業。オーナーはニューデリー出身の北インド料理店。現在は日本米を使用したサフランライスがある。
サムラート:1980年、南青山に創業の北インド料理店で、ナン&カレーを提供する。またハラール料理を提供している。ライスは日本米のターメリックライス。
正確なところわからないのですが、1960年代には黄色いライスは採用されず、1970年代後半か80年代になって、黄色いライスを提供するようになったように思われます。
◆1980年代に黄色いライスが広がったのでは?
1960年代、70年代に東京を中心に上記のような高級路線のインド料理店が増えました。
1980年代になると地方都市にもインド料理店が開業し、80~90年代にインド料理店が増加します。
そういう中で、ライスの見栄えをよくして、他店との違いを示すために黄色いライスを提供する店が増えたのではないかと思います。
そのルーツは、ナイルレストランのムルギーランチの黄色いライスだと思います。
1970~80年代に黄色いライスを提供するようになったのがどこの店かはわかりません。
なお、1970~90年代には、肉のカレーとナンというロンドン流にアレンジした北インド料理が日本に定着します。
そして1990年代以降にはネパール人経営のインド料理店、いわゆるインネパ店が増加し、巨大で甘くフカフカなナン、グレービー(汁気)の多いカレー、生野菜サラダが提供されるようになります。
(参考:「インド人が驚く日本の「ナン」独自すぎる進化」)
黄色いプレーンライスの原形は |
ナイルレストランが日本で初めて提供した黄色くプレーンなターメリックライス。
その原形はインド料理にあるのでしょう。
それは何なのか?
たぶんレモンライスではないかと思います。
先に書いたように、インドでの黄色いライスは、炊き込みご飯タイプのプラオ、ビリヤニと混ぜご飯タイプのレモンライス、ミティチャワル、トマトライス、タマリンドライスなどです。
ビリヤニやプラオはカレー(グレービー)と炊き込む料理で、単なる黄色いライスではい。だからカレーと合わせて(混ぜて)食べるプレーンライスとは違います。
日本の「黄色いプレーンライス」に近いのは以下のようなものがあります。
◆レモンライス
レモンライスはレモンの香りが特徴の黄色いライスです。
レモン汁、ショウガ、青唐辛子、カレーリーフ、マスタードシード、ターメリックなどの香辛料を使いウラドダール、チャナダール、カシューナッツなどを入れたりする。
◆ミティチャワル
インドでは、引っ越しや新築のお祝いの時には「ミティチャワル」という黄色いご飯を作ります。
「ミティ」は甘い、「チャワル」はご飯で、単に黄色いだけでなく、甘いご飯です。
サフランかターメリックで黄色くしたご飯ですが、クミンシードと黒砂糖で甘い香りと味をつけたご飯です。(参考:インド家庭料理ラニ「サフランライスありますか?」)
◆カハバトゥ
スリランカには「カハバトゥ」(カハバット)というターメリックライスがあります。
カハバトゥは「黄色」のことで、まさに「黄色いご飯」、「イエローライス」です。
使われる素材は、ターメリックのほかに、ギー、ガーリック、ニンニク、カレーリーフ、パンダンリーフ(ランペ)、カルダモン、クローブ、ココナッルミツク。 ( 参考:「スリランカ大使館シェフのターメリックライス」)
シナモンが入るレシピもあります。
ココナッツミルクが入り、甘い香りのパンダンリーフ(ランペ)やシナモンが入ることが特徴ですが、砂糖は入っていません。甘い香りがして、ココナッツミルクの甘さはあるけど、甘いご飯ではない。
サフランライス、ターメリックライスへの幻想 |
インドカレーに合わせるライスは、黄色いライスではなく、白いライスが普通だ。
黄色いライスは日本のインド料理店で生まれ、広まった育った。
黄色いライスの原形はインドのレモンライスなどで、それにはターメリックを使う。
以上のようなことだと思います。
なのでカレーには黄色いライスがいい、というのは思い込みと思います。
サフランライスが本物で、ターメリックライスは代用品だ、というのはどうなんだろ。
実際のところよくわからないのですが。
インドでビリヤニに黄色い着色をするときに、できればサフランを使うけれど、家庭や庶民的なレストランではターメリックが使われているようです。
それ以外の着色はターメリックを使うことが多いように思えます。
お祝いにいただくビリヤニにはサフランが使われる。しかしサフランライスが本物でターメリックライスは代用品だ、という認識はないように思えます。
だから、カレーと食べる黄色いライスはサフランライスが本物だ、というのも日本人の勝手な思い込みと思います。
ついでに言うと、カレーにはバスマティ米がいいというのも、実は誤った認識でしょう。
インドでカレーに合わせる米は、普通のインド米であって、香りの強い高価なバスマティ米ではないようです。(参考:「ミールスにはバスマティライスよりもタイ米が合う、4つの理由」)
なのに日本のインド料理店では、普通のインド産米ではなく高価なバスマティ米を使っている。これまた不思議なことです。
その理由は、意外にも日本ではバスマティ米以外のインド産米は品薄で入手しにくく、むしろ高価だ、ということらしいです。
注:インド産米とはインド産の米(インディカ米)のこと。日本で販売されているインディカ米にはタイ米も多く、それと区別するため、また「インディカ米」と区別するために「インド産米」と書きます。市販されているタイ米には、ジャスミン米もありますが、多くは普通の米(インディカ米)。インド米とは違った流通事情にあります。
と、まぁ、知ったかぶりに書きましたけど、はて正しいのだろうかな?
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