クエ、アブラボウズ、アブラボウ、アブラソコムツ、インガンダルマ [ 沖縄と食]
【追記】
TBS系「林先生が驚く初耳学!」の2015年4月19日放送の2時間SPで、「インガンダルマ」という魚のことが登場したために、一時期、この記事にアクセスが集中。
【追記2】
2015年8月10日放送の日本テレビ「有吉ゼミ」で、「アブラボウズ」が登場。
そしたら「アブラボウズは食べ過ぎ厳禁!!お尻から油が垂れ流し状態になります」などの情報がツイッターなどでネットを飛び交い、おかげでこの記事へのアクセスが増えました。
もちろん、それは誤情報です。
クエという高級魚があります。「美味しんぼ」でも紹介された魚です。
このクエのことを九州ではアラと呼ぶのだそうで、それが「美味しんぼ」でのネタになっています。
そのクエと偽ってアブラボウズを販売していた業者がいて、農林水産省は2008年3月19日、漁業団体や流通業界、都道府県などに対し、注意喚起の文書を出しました。(アブラボウズの名称表示の適正化について)
かつて「タラバガニ」と偽って「アブラガニ」が売られていたのと同じような話です。偽ることはよくありません。
しかしいまでは、アブラガニはアブラガニとして、タラバガニに似たリーズナブルなカニとして流通しています。
アブラボウスも、クエのようにうまいわけ。
ならばクエの偽物としてではなく、アブラボウズ自体として流通すればいいのです。
さて、ここからが本題です。
この「アブラボウス」に関して間違った情報が飛び交っています。
Wikipediaによると「アブラボウズは肉にワックスエステルを多く含んだ脂質が多く、多食すると下痢を起こすことがある。」と書かれていますした。
アブラボウズは、クエの偽物であるだけではなく、なんと食べると下痢になるというとんでもない魚だ、というわけ。この手の情報がネットでかなり流布されています。
しかし結論から言うと、これは真っ赤なウソの誤情報です。
(【追記】wikipediaの既述は訂正されました。)
肉にワックスエステルを多く含み、食べると下痢を起こす、というのは「アブラボウズ」ではなく、それによく似た名前の「アブラボウ」という魚のことなのです。
先の農水省のHPによると「アブラボウズは、東北地方では一般に「沖ネウ」、「アブラボウ」という地方名で呼ばれています。」(下線は引用者)とある。
東北地方ではアブラボウズをアブラボウという。地方名として、これ自体は正しいんです。
けれど、この記述が誤解されて、誤情報がネットで流布されているのかもしれない。
もう一度言います、クエと偽って売られた「アブラボウズ」と「アブラボウ」とは、全く別の魚なのです。
じゃぁ「アブラボウ」という魚は何かっていうと、和名は「アブラソコムツ」。
このアブラソコムツは、とても脂がのっている魚なのだけど、しかしその脂は実は油脂ではなく、消化されないワックス。そのためそれを食べると下痢になる。
だから現在では食用禁止になっている魚なのです。
どんな魚かは「食用禁止の魚~バラムツとアブラソコムツ~」(pdf)をご覧下さい。
【追記】
アブラソコムツは1981年に、バラムツは1970年に、ワックスのために食用禁止になっています。
厚労省「自然毒のリスクプロファイル:魚類:異常脂質」
概要版:ttp://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/animal_08.html
詳細版:http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/animal_det_08.html概要版には、「アブラボウズはトリグリセリド(トリグリセリドは通常の脂質成分であるが、アブラボウズの場合は筋肉の脂質含量が50%近くに達する)」とあって、なんだか危険そうな書き方です。
しかしトリグリセリドは中性脂肪ですから毒性はありません。詳細版には、トリグリセリドは「栄養価も高く毒性はない」と書いてあります。
しかし「消化不良により下痢を起こす」とあって、要するに脂っこいから食い過ぎちゃいかんってこと。
その程度だからアブラボウズは食用禁止にはなっていません。
さて、食べると下痢をするというアブラソコムツ。
食べるとどんな感じなんだろう・・・なんて想像してしまう。
そんなことを考えていたら、思い出しました。
それを食べて「下痢」をした体験談が、本に紹介されていることを。
仲村清司『沖縄の人だけが食べている』(2003年、夏目書房)に載っている「インガンダルマ 濡れても食べたい食えない魚」です。私の本棚にありました。
アブラソコムツは沖縄ではインガンダルマと呼ばれているのです。それを食べたのです。
原文は、仲村さんのブログにあるので、ご覧下さい。
「お尻が濡れる食えないやつ」
本にはこんなことも書いてあります。
「事情通によると、生の刺身は誰もが唸るほど美味しいそうだが、厚さ3ミリで3切れまでが安全ラインで、干物は5切れ以上食べるとどんな人でも十数時間後には出るのだそうだ。」とのこと。
このインガンダルマを食べたという報告は、ネットでかなりある。
みなさん好奇心旺盛ですね。そう言う私も、食べてみたい気が強くなってきました。
【追記】
「インガンダルマ」とは、「胃がたるむ」ではなく、「犬がダレル」という意味だそうです。
重詰料理の豚三枚肉 [ 沖縄と食]
ンブシ豚(煮しめ豚)
「沖縄では清明祭などの重箱料理には、豚の醤油煮込みが使われます。」の続きです。
ラフテーに似た沖縄料理に豚三枚肉があります。
沖縄では清明祭などの法事には重詰料理が出されますが、そこに豚三枚肉という料理があります。
そのレシピを新島正子『琉球料理』(1971年、新島料理学院発行)から紹介しましょう。
ンブシ豚(煮しめ豚) [ 沖縄と食]
味噌煮豚
沖縄の客膳料理である「五段の御取持」のことを「五段御取持」の角煮とラフテーで紹介しました。
新島正子『琉球料理』(1971年、新島料理学院発行)によると、その本膳である二の膳に「ンブシ豚」があります。
写真のようにラフテーそっくりです。でもこれはラフテーじゃないんです。「ンブシ豚」です。
沖縄で「ンブシ」というと味噌煮込みなんですが、これは醤油の煮しめです。なんだかちょっとわかりにくいですが・・・。
その「ンブシ豚」のレシピは次のように書かれています。
味噌煮豚 [ 沖縄と食]
ラフテーの作り方 [ 沖縄と食]
ラフテーについて、料理関係の本を見ています。
料理本といっても、ラフテーの由来を考えるには古い本を見るのがいいでしょう。ってことで、まずは新島正子『琉球料理』(1971年、新島料理学院発行)です。
そこに載っているラフテーの作り方を紹介しましょう。写真は、その本に載っていたラフテーです。
急に料理教室です!
「五段御取持」の角煮とラフテー -ラフテーの由来(12)- [ 沖縄と食]
琉球料理店「美栄」のサイトでは「五段御取持」が再現され、そこには「夢の五段料理を味わう」という古波蔵氏の文章があります。「客膳料理とラフテー-ラフテーの由来(10)」で紹介したことです。
その文章の原典が掲載された文芸春秋社『くりま』9号(昭和57年6月)を見ました。そこでいくつかのことがわかりました。
おきなわ文庫 [ 沖縄と食]
沖縄の豚と山羊
「おきなわ文庫」という新書版の本が沖縄にはあります。
『沖縄の豚と山羊』もその1冊です。
定価900円の新書版の本で、沖縄に関する様々なテーマに関する研究が取り扱われているものです。
那覇空港でも買える本です。
しかしAmazon.conで検索しても、「おきなわ文庫」は出てきません。
沖縄の豚と山羊 [ 沖縄と食]
ラフテーの由来をみつけてみようと思いながら沖縄の豚のことを調べていたら、アグーという沖縄の在来豚についても興味がわいてきました。
「興味」って、要するに、食べてみたい!っていうことですが・・・。
絶滅しかけていたそのアグーの保存に力を入れた人がいたそうです。名護市の博物館長をした島袋正敏さんです。その人が『沖縄の豚と山羊』(1989年)という本を出している、というので探しました。
オキナワなんでも事典 [ 沖縄と食]
コザと「ゆがふ」の由来 [ 沖縄と食]
たぶん9月のことだと思うけど、NHKのテレビに、あの「ちゅらさん」で沖縄料理店のマスターをしていた人が出て、沖縄のことを語っていました。
店の名前を覚えていますか?
実はこれが本題なんだけど・・・。
その前に、マスターをやっていた人のことから。
名前は藤木勇人さん。
「ちゅらさん」の方言指導もしていた人で、元りんけんバンドのメンバーでもありました。
本人のHPもあります。
その藤木さんの話の主題は、沖縄の「テーゲー」についてでした。
もしかすると、教育テレビの「日本語なるほど塾」だったのかな?
「テーゲー」の例として、今は沖縄市になっている「コザ」という地名について話していました。
もともとコザなどという地名がないのに、米軍が間違ってつけた名前だ、というのです。
コザの中心部である胡屋(ごや)をKoya(こや)と読み誤り、しかもその字が下手だったのでKoza(コザ)と読み誤われた、というものです。「z」と「y」とは、筆記体だとよく似ていますからね。
この話は有名なのかな?
沖縄市のサイトの「沖縄市民俗学」にも説明がありました。