SSブログ
 

古波蔵保好『料理沖縄物語』-ラフテーの由来(7) [ 沖縄と食]

料理沖縄物語古波蔵保好『料理沖縄物語』(1983年、作品社)をamazon.comで手に入れました。

この本は、1990年に朝日文庫から再刊されていますが、両方とも今は品切れです(再刊されないから、要するに、売られていないってこと)。

そこで古書を手に入れたというわけです。古波蔵保好氏(1910~2001)は首里生まれの新聞記者、評論家、エッセイスト。ダンディーで料理通でも知られたらしい。「ラフテーの由来(5)」に書いたように、琉球料理「美栄」のオーナーでもありました。

その中には「美味なるらふてえ」というのがあります。そこで古波蔵氏の母の「らふてえ」の作り方を書いてありますが、それは現在のラフテーとは異なるものです。以下、長いですが、その部分を紹介します。

 

 

「母が「らふてえ」をつくるのに使っていたのは、確かな記憶ではないが、豚のもも肉だったように思う。
・・・市場へ出かけて、もも肉のカタマリ二つ、三つ仕入れてくると、七輪に炭火をおこす。皮を下にして金網にのせ、火にかけるのは、皮を軽く焦がすためである。」豚は、沖縄の黒豚です。
「市場の肉売場に出ている豚の皮つき肉は、もう黒い毛のほとんどを除かれて、表皮がキレイになっているものの、やはり毛根が残っている。皮を火で焙るのは、毛根を除くためで、母は、皮が軽く焦げると、井戸端に持っていき、包丁で表皮をけずった。毛根がすっかり除かれるまでの念入りな仕事だったのである。
 あと、ていねいに洗ってから、角切りにして、鍋に入れ、かまどの火にかけた。火は強くしないで時間をかける。そのうちに、皮と肉との間にあるあぶら身からあぶらが溶けだして、やがてあぶらの中で肉が煮られているという状態になった。
 ころあいをみて、石ころのように硬い氷砂糖を入れる。氷砂糖がだんだん溶けるにつれて、甘味が肉に浸透していく。ふつうの粉砂糖だと、いっぺんに溶けるので、甘味が肉にしみていかない、と母は語っていた。さらにゆっくり煮て、醤油で味付けする。
 できあがるまでに半日がかりで、しかもかまどの火を弱いままに保たなければならないので、目を離せない。「らふてえ」をつくりだすと、母はほかの仕事をやめていた。
 その晩のおかずは、もちろん「らふてえ」である。皮は餅のようにネチッとやわらかく、歯で噛むと、特有の香り--ほかのどの肉にもない香りがあった。この香りが、わたしの記憶に今も濃く残っている。
・・・夕飯のおかずにする分だけ、できたての「らふてえ」を取ったあと、鍋は薪棚の下にぶらさげておかれたのだが、だんだん冷えてくると、鍋いっぱいに真白くなる。
 真白いあぶらの中に閉じこめられた「らふてえ」は、腐るということがなかった。使う時は、あぶらの中から掘りだすのである。つまみだしたのを温めておかずにすることもあったし、薄く切って、ほうれん草とともに炒めるなど、「らふてえ」があるうちの食事は、たいへん楽しいものだった。
 どうやら、沖縄の人たちは、豚あぶらが食品の腐敗を防ぐために役立つということも知っていたよう」だ。

「さて、家庭料理としての「らふてえ」は、以上のとおりであるが、わたしの妹である登美は、「美栄」という名の琉球料理店をひらくに当たって、この家庭料理を料理店の料理らしくつくりかえたのである。
 どう変えたかというと、母がやっていたのと違って、まず皮付きの豚肉をかたまりのままで茹でることからはじまったように思う。
 茹でたのを1センチ半くらいの厚さに切っておき、厚手の鍋に、少量の「泡盛」、醤油、砂糖(または水飴)を入れて煮立ててから、肉を入れ、弱火で2、3時間煮込む。
 厚手の鍋を使うこと、調味料に「泡盛」を加えることなどで、「らふてえ」をトロリとしたやわらかさに仕上げることができるようで、こうして「らふてえ」は、家庭料理の場合といささかオモムキの異なる料理に昇格した。
 かつて母たちの流儀でつくられていた「らふてえ」は、噛みごたえがあるていどの堅さがあったのにくらべ、妹のくふうで新しい料理になった「らふてえ」は、皮を噛むための歯が必要ないくらいで、肉もやわらかくなっている。
 醤油の半量を「淡口」にすることで、皮は飴色にツヤが出て、肉も見栄えよくなった。家庭料理の「らふてえ」が味本位だったのに対して、妹創案の「らふてえ」は、おいしさをそのままに、色の美しさと食べやすさを加えて、料理店のもてなし料理にふさわしい品格を与えたと言えるだろう。
・・・妹の「らふてえ」がいつしかひろまって、近ごろは「美栄」風を昔ながらの「らふてえ」と思っている人が多い。」


 
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0