「海の精」と国産の自然海塩 [食文化]
「海の精」という塩をいただいきました。
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それに同封されたパンフレット読んで、塩造りのことを少し調べてみました。
そして、国産の自然海塩って、なるほど、いったいどれなんだろう・・・と改めて思いました。
『正しい塩の選び方』と小さな「海の精 塩ストーリィ」。
塩の作り方 |
塩の作り方とその歴史について紹介しましょう。
NPO法人日本食用塩研究会の「正しい塩の選び方」というパンフレット。
「自然海塩」について、いろいろ解説があります。
【日本の塩づくりの歴史】
縄文時代からの「直煮式」。
ホンダワラ(玉藻)に海水をかけて濃縮させる「藻塩式」。
「揚浜式」は、塩砂の上に桶で海水をまいて海水を濃縮させる方法。
NHKの朝ドラ「まれ」で田中泯さんが演じる製塩職人・桶作元治が能登で行っていた製法です。
「入浜式塩田」は、潮の干満の差を利用して海水を引き入れる方法で、江戸時代から瀬戸内で行われていた。
そして第二次大戦後の1952~59年に、ポンプを利用する「流化式塩田」に転換します。
JTのHPにとってもわかりやすいの図があります。
(JTのHP:「日本の塩」)
地表面に粘土を張って、ゆるい傾斜をつけた「流下盤(りゅうかばん)」にポンプで吸い上げた海水を流し、太陽熱で水分を蒸発させます。それを竹の枝を組んだ「枝条架(しじょうか)」の上から滴下させ、風力によって蒸発させて「かん水」を採る。
それを煮詰めて塩にします。
で、「海の精」は・・・
「海の精 塩ストーリィ」の方には・・・
伊豆大島で作られている。
効率的な立体塩田。ネット架流下式塩田。
日本特有の伝統製塩法に工夫を加えた・・・。
①天日で濃縮:塩田で海水の水分を蒸発、濃縮。→これが「かん水」
②平釜で煮詰める:濃縮した海水を平釜で煮詰めて塩を結晶させる。
③成分を整える:煮上がったら撹拌して、母液(未結晶のニガリ液)を分離する。
④包装:検品して包装する。
40年間こだわりの塩づくりをしてきました。
ネット架流下式塩田で海水を濃縮。
「ネット架流下式塩田」ってのが、ポイント。
「流下盤」で海水の水分を蒸発させ、それを竹の枝を組んだ「枝条架」でさらに濃縮するのではなく、ネットを用いた「ネット架」を用いるところが、オリジナルです。
そこでできた「かん水」を平釜で炊いて結晶化すたのが、普通の「海の精 あらしお」。
天日で塩を結晶化させたものが、「海の精 ほししお」ですって。
自然海塩をめぐる歴史 |
「海の精 塩ストーリィ」に【塩運動の歩み】という、歴史が紹介してあります。
ここが、かなり興味深かったです。
現在、いろんな塩が販売されていますが、実は長い間、塩の製造販売は国の専売制でした。
しかも製造法まで国が決めていました。
そのおかげで、1971年、塩田を使って海水から塩を作る、ということが禁止される事態になりました。
そこから「天然塩」をめぐる動きが起こって来ました。
1997年、塩専売法が廃止され、塩の生産流通が自由化されるまで続きます。
塩の歴史について少し詳しく書きましょう。
1905年から塩専売法によって塩の国家専売が実施されます。
目的は日露戦争のための膨大な戦費の調達のためです。
第二次大戦後の1949年、大蔵省専売局から日本専売公社に塩の専売事業が移管。
戦後になって、塩の製造方法は先に紹介した「流化式塩田」に転換します。
ところが、1971年、「塩業近代化法」を成立させる。
塩の生産コストを下げるために、塩田を全廃して「イオン交換膜法」に転換されます。
イオン交換膜法は、電気を使って、陽イオンのNa+と陰イオンCl-とを集めて濃縮させる方法です。
あわせて、イオン交換膜法を使って塩を製造する会社を7社のみに限定します。
(ただし奥能登の塩田のみは観光揚浜塩田として残されたそうです。)
ここから、それに反対して、旧来の製法での塩造りを守る運動がおこります。
「塩の品質を守る会」が結成され、1971 年に「国内天日製塩廃止に対する抗議文」を発表。
さらに全国各地の消費者団体も賛同して5万人の署名を集めて国会陳情しますが、請願はかないません。
その後の運動はいくつかあるようです。
1つは、「伯方の塩」に至るもの。
1971年に、松山市の有志が中心となって塩田整理に反対した「塩の品質を守る会愛媛支部」が設立。
1972年、それを「自然塩を守る会」に改称、さらに1973年に「日本自然塩普及会」に改称。
「特殊用塩(自然塩)」製造を専売公社に申請して、自主流通塩の製造を委託されます。
そこで「伯方塩業株式会社」を設立して「伯方の塩」の製造・販売開始します。
専売公社が許可した塩は、専売公社が輸入するメキシコ、オーストラリアの原塩(天日塩田塩)を瀬戸内海の海水で溶かした後、平釜で炊いて再結晶化するというもの。
その後、2010年になって、今治市大三島町に「流下式枝条架併用塩田」を再現。
本来の天日塩「されど塩」も販売しています。
もう1つが、「海の精」に至るもの。
1972年、自然食関係者と消費者グループや学者が集まって「食用塩調査会」が発足。
マクロビオテックの「日本CI協会」が関与していたそうです。(「CI」はLe Centre Ignoramus=「愚者の集まり」という意味だそうです。)
1976年、伊豆大島に製塩研究所が開設。塩づくりの開発実験を開始。
「ネット架流下式塩田」でかん水を作り、温室式天日採塩で国産の自然海塩を製造。
1979年、日本食用塩研究会に改組し、試験目的の塩製造許可を専売公社から得る。
ただしその条件は「生産した塩は無料であっても他に譲渡せず、すべて廃棄する」*というもの。
1980年、塩を製造。一方で、試験製造塩の会員配布を求める上申書を日本専売公社に提出。
「会員配布」ということで塩を配布する。これが現在の「海の精 ほししお」です。
1984年、平釜式採塩方式を導入。現在の「海の精 あらしお」です。
1985年、日本専売公社が日本たばこ産業になって、塩の試験製造が許可制から届出制に変更。
塩の自主流通を開始します。
1997年、塩専売法が廃止。塩の生産流通が自由化。
*植田有美「専売制度廃止後における自然海塩の生産と流通(pdf)」(広島大学生物生産学部卒論)より
「海の精」の塩は、「伝統製法」とはいえ、戦後の技術によるもので、日本古来のというわけではない。
しかし日本で塩田を使って海水を煮詰めて造った塩であることは間違いない。
いろんな塩が売られいるんですけど、国産の天日塩って、「海の精」のほかに、どれだけあるんだろうか?
もちろん塩が国産でなければならない、というわけでもないんです。
とんちゃん自身、輸入の岩塩も料理に使いますから。
しかし「伯方の塩」で紹介したように外国産の塩が原料のものが、ほとんどらしい。
とんちゃん宅で使っている「平釜塩」だという某塩の原料をよく見たら・・・
原材料名:天日塩(89.3%メキシコまたはオーストラリア)、海水(10.7%〇〇)
行程:溶解、平釜
「〇〇」は、国内の地域名です。
海水10.7%ということだけど、海水の塩分濃度は3.5%程度です。
だから塩分の比率で言ったら、日本の塩は0.4%で、99.6%は外国産の天日塩。
確かに日本で造った塩ですけど、中身はほぼ外国産の天日塩。
確かに、ちゃーんと読めば、正確に書いてある。
国産だ!と思っていたら、実はそうでもない、というのは、買い手の問題ではあります。
しかし、いささか納得できない感じです。
こんなの買うなら、外国産の塩を買えばいいじゃないか!
補足:
塩専売制度が廃止されて以降、「天然塩」や「自然塩」ブームになります。
2004年に公正取引委員会が「家庭用塩の製造販売業者9社に対する警告等について」という警告を出します。⇒http://archive.fo/kHvu0#selection-399.12-399.36
そこで2008年に業界が「食用塩公正競争規約」を策定し、塩は原材料名と工程を明記しています。
また、「自然塩」、「天然塩」という言葉は使えず、「ミネラルたっぷり」、「健康・美容に良い」などの表示お使えません。
⇒食用塩公正取引協議会:http://www.salt-fair.jp/
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