サケとマスの違い [食文化]
「サケ」の種類といえば、紅ザケ、銀ザケ、キングサーモン、また「マス」の種類といえばニジマス、カラフトマスの名を思い浮かべるでしょうか。
サケは鮭、マスは鱒というように、名前も漢字も区別されいるのだから、きっちりと分けるべきもののように思っていました。
ところが紅ザケ、銀ザケは紅マス、銀マスとも呼ばれ、キングサーモンはマスノスケとも呼ばれます。
いったいサケとマスはどう違うのか疑問です。
そこで調べてみたら・・・
まずは、結論から。
「サケとマスの名称の違いに生物学的な意味は全くなく、サケ科の魚を種によって、○○サケや○○マスと呼んでいる。」ということです。(東京魚市場卸協同組合「「サケ」と「マス」の違いは」)
それで現在では両者をあわせて鮭鱒、サケマスと呼ぶようになっています。
その経緯を紹介しましょう。(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』の「サケ類」なども参照 )
サケもマスも、日本の古くからの文献に載っています。
サケは奈良時代の『常陸国風土記』(710年)に「鮏」として、また『出雲国風土記』(733年)に「鮭」として現れます。
マスも『出雲国風土記』に麻須(ます)として現れ、奈良時代以降、「鱒」という字で多くの文献に登場します。
こうした「サケ」はシロザケのこと、「マス」はサクラマスのことでした。
(ただしマスは、中部日本から西日本の文書の鱒は降湖型ヤマメやアマゴや降海型のサツキマス、近江国の鱒はビワマスの可能性もある。)
ということで端的にいうと、かつて日本では、「サケ」とはシロザケのことであり、それ以外のサケ科の大きな魚は「マス」と呼ばれたのです。
マスノスケやカラフトマスという名は、この理由からつけられた名称です。
ロシアに回帰する一部が北海道で採れる大型サケ科の魚がありました。これは、サケではなく、「マスノスケ」(大きなマス)という名で呼ばれます。
さらに近代になってオホーツク海やベーリング海のいわゆる北洋での漁業が行われるようになると、そこで採れた大型のサケ科の魚は「カラフトマス」と呼ばれることになります。
他方で、英語にもサケ・マスを指す言葉として salmon (サマン、サーモン) と trout (トラウト) があります。
salmo は、元来はブリテン諸島に分布するタイセイヨウサケ属のうちの Salmo salar (タイセイヨウサケあるいはアトランティックサーモン)のみを指していました。
またtrout は、同じくブリテン諸島に分布するタイセイヨウサケ属の Salmo trutta(ブラウントラウト)のことでした。
前者は降海性が強い魚、後者は河川生活性が強くて一部しか降海しない魚です。
英語圏が北アメリカ大陸へ拡大すると、太平洋岸で様々なサケ科魚類に出会いました。
そこで降海性のものには salmon 、河川生活性のものには trout という名をつけました。
サーモンでは chum salmon(シロザケ)、king salmon(マスノスケ)、トラウトでは rainbow trout(ニジマス)の命名がされました。
明治になり、英名を日本語に翻訳するようになります。そのとき、troutにマス、salmonにサケを当てました。
それで rainbow trout はニジマス、 silver salmon (または coho salmon) はギンザケなどと訳されました。
そしてこの訳語と同時に、降海性のものには salmon (サケ)、河川生活性のものには trout (マス)という概念までも輸入されました。
その結果、シロザケ=サケ、シロサケ以外はマスという以前の和名の基準に加えて、salmonはサケ、troutはマスという英訳の基準、さらに降海性=salmon=サケ、河川生活性=trout=マスという基準が加わり、現在はいわばダブルスタンダード、いやトリプルスタンダードの状態になっています。
こうした結果、
マスノスケという和名の魚がキングサーモン(king salmon)と呼ばれる。
紅鮭(ベニザケ)(sockeye salmon、red salmon)の陸封型がヒメマスで、これはベニマスとも呼ばれる。
銀ザケ(silver salmon、coho salmon)は銀マスとも呼ばれる。
ニジマスの(rainbow trout)の一種がサーモントラウトとかトラウトサーモンと呼ばれる。
サクラマスは降海性なのでCherry salmon(サクラサケ)という英名である。
ということになっています。
そんなわけで、サケだマスだと区別する必要はないってことになっているんです。
名前の統一があった方がいいけど、あんまり気にしない方がいいってことでしょう。
マスとサケとが混乱しているけれども、しかしこれは、深海魚のマジェランアイナメが銀ムツ(メロ)と商業名をつけられて呼ばれるのとは違っていることは確かです。
サケ・マスで気をつけたいのは、養殖物と天然物との区別です。
養殖物の危険性が指摘されているのだから、その点をきちんと明示してもらいたいものです。
このことは「養殖鮭の危険」をどうぞ。
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