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「わかさいも」のルーツ [ 北海道と食]

北海道のお土産として、古くから有名なお菓子の1つに「わかさいも」があります。千歳空港などでも買えます。

北海道名産のジャガイモではなく、サツマイモの形をしたお菓子です。しかしその原材料はサツマイモとは無縁の大福豆、中に入っている繊維風のものは昆布というように、北海道の特産物でできているお菓子です。
ホックリした「わかさいも」も美味しいですけど、それを天ぷらにした、気持ちはサツマイモの天ぷら風の「あげいも」も私は好きです。

そのメーカーは、洞爺湖温泉にある“わかさいも本舗”。

ところがその「わかさいも」にそっくりなお菓子がいくつかあるのです。
どんなものがあるかというと・・・。

まずは、洞爺湖温泉にある“わかさいも本舗”の「わかさいも」
さらに寿都町に“若狭屋老舗”の「わかさ屋いも」
京極町、札幌市宮の沢に“わかさや本舗”の「いも風味」
登別町に“わかさ屋菓子舗”の「手焼いも」
全部で4つもあります。

もうひとつ「わかさっこいも」というのもかつてはあったと、私は記憶します。(これがあったことは、後述)

こうして見ると、“わかさいも本舗”の「わかさいも」以外は、そのバッチ物のように見えるし、いろんなネット上でもバッチ物とあつかわれています。私自身もそう思っていました。

しかし、どうもそうではないということを知りました。

 

「わかさいもの」のことをネットで検索していたら、そのルーツ問題というか本家問題について詳しいサイトを発見しました。
「わかさいもを巡る諸研究」(以下「諸研究」と呼びます)です。http://www1.linkclub.or.jp/~nwata/b_class/eat/WAKASA/INDEX.html

その「諸研究」では、各製品についているチラシなどをたよりにルーツをさぐっています。そして結論として「わかさいも」以外のお菓子は寿都の店がルーツであることを突き詰めているのです。すばらしい。

ではそれと「わかさいも」との関係はどうかというと、その肝心なところは不明なままになっています。

これはいかにも残念。

そこで、「諸研究」の情報を参考にして、私なりに整理して、推測を交えた結論をここに書いてみることにします。


まずはそれぞれの製品について、「諸研究」の情報やネット情報をもとに紹介します。

はじめは、「わかさいも」を製造販売している“わかさいも本舗”について。

黒松内駅で「やきいも」(わかさいもの前身)を販売していた【若狭函寿】が、1930年(昭和5年)5月、洞爺湖温泉へ移り、“わかさや”を開業し、「わかさいも」と命名する。この情報は同社のHPにも書いてあります。

それ以外の製品についてはどうでしょう。

「諸研究」によると以下のとおりです。

寿都の“若狭屋老舗”(製品名は「わかさ屋いも」)がルーツで、初代は【若狭源七】という人であった。
その寿都から登別の“わかさ屋菓子舗”(製品名は「手焼いも」)、京極の“わかさや本舗”(製品名は「いも風味」)が分離した。

札幌宮の沢にも京極と同じ“わかさや本舗”があります。
「諸研究」に京極から分離したと書かれていますが、これはたぶん違っていて、もともと京極にあった店が札幌に進出したのですけど、分離したり、のれん分けしたりしたわけではなく、いまも同じ会社で、京極は工場という位置づけになっている、というのが実際のところでしょう。

こうしてみると、確かに2つのルーツがあるように見えます。

すなわち“わかさいも本舗”のルーツは【若狭函寿】、わかさいも以外のルーツは【若狭源七】ということになっています。

では【若狭函寿】と【若狭源七】との関係はどうなのか。「諸研究」の筆者が至った謎はここです。


その謎を解くのが、ここで書きたいことです。

以下、2つの系統の関係をあれこれ書きますが、その前にまず結論を書いておきましょう。

私の結論は、洞爺湖の“わかさいも本舗”のルーツは寿都の“若狭屋老舗”である、です。

結論をそう言うと、では、“わかさいも本舗”はHPにウソを書いているのか、ということになりますが、決してそうではないでしょう。

先の、“わかさいも本舗”のところをもう一度よく読んでみましょう。

黒松内駅で「やきいも」(わかさいもの前身)を販売していた若狭函寿は1930年(昭和5年)5月、洞爺湖温泉へ移り、わかさやを開業し、「わかさいも」と命名する。

【若狭函寿】は黒松内駅で菓子売りをしていたのが始まりです。とのときは、「製造」していたのではなく、単なる「販売」なんです。

では、【若狭函寿】が販売していた製品は、どこが作っていたのでしょう。これが重要なキーだと思います。

さてそれでは、“わかさいも本舗”以外の各菓子店の経過を改めて「諸研究」から簡潔に整理しましょう。

寿都の“若狭屋老舗”(現製品名は「わかさ屋いも」):
・明治42年、初代若狭屋【若狭源七】が「やきいも」という名で売り出し。
・昭和の初期に製品名を「わかさいも」と改名。
・その後製品名を「わかさ屋いも」と改名。

登別の“わかさ屋菓子舗”(現製品名は「手焼いも」):
・初代【若狭源七】が「いも」を創製。
・二代目若狭徳兵衛が登別において「類似品の防止もかね名前も苗字のわかさを冠し名物わかさいもと改め・・」
・3社別々に商標登録を申請したため、名称を「手焼いも」と改めた

京極、札幌の“わかさや本舗”(現製品名は「いも風味」):
・明治末期に寿都に菓子店を開業
・1919年(大正8年)創業

つぎに、各菓子店の名称の変化を整理しましょう。

寿都の“若狭屋老舗”:明治42年創業時に初代若狭屋【若狭源七】が「やきいも」→昭和初期に「わかさいも」と改称→「わかさ屋いも」と改称。

登別の“わかさ屋菓子舗”:初代【若狭源七】が「いも」を創製→二代目若狭徳兵衛が登別で「名物わかさいも」と改名→「手焼いも」と改称

京極の“わかさや本舗”:「いも風味」。名称変化は不明

洞爺湖の“わかさいも本舗”:初代の【若狭函寿】が黒松内駅で「販売」したのは「やきいも」→洞爺湖で「わかさいも」に改称

こうして見てみると、2つのことがわかってきます。

第1は、ルーツについてです。
寿都の“若狭屋老舗”が「製造」していたものが「やきいも」で、“わかさいも本舗”の初代の【若狭函寿】が黒松内駅で「販売」したのも「やきいも」です。
きっと、【若狭函寿】が「販売」していたのは、“若狭屋老舗”が製造していた「やきいも」だったのでしょう。このことから、ルーツは寿都の【若狭源七】だと思うのです。

第2に、製品名の変化です。
名称変化が不明の京極を除くと、寿都の“若狭屋老舗”、登別の“わかさ屋菓子舗”、洞爺湖の“わかさいも本舗”が「わかさいも」という名を使うようになりました。そして登別の“わかさ屋菓子舗”が言うように、3社が商標登録をした結果、それぞれが名称を変更しました。
かつて「わかさいも」という名称をめぐって3社が争い、結果的に洞爺湖の“わかさいも本舗”が商標登録に成功したということでしょう。

なぜかというと、たぶん、最初にこの名を使ったのが同社だったからでしょう。

出願は、昭和28年(1953)2月13日、登録は昭和32年(1957)3月11日です。なお、その「3社」が、洞爺湖の“わかさいも本舗”と登別の“わかさ屋菓子舗”とあと1つがどっち(寿都か京極か)は不明です。(この点、後述のメモ参照)

以上のことをまとめると、こうなります。

【若狭源七】が興した寿都の店がルーツである。【若狭函寿】は、当初、その製品を販売し、後に洞爺湖で「わかさいも」という名称をつくり出した。そして、他の店もその名称を共通して使うようになった。その後、商標の登録を巡って争いとなり、結果的に洞爺湖がその名称を独占し、他の店は別の名称を使うことになった、というでしょう。

名称問題自体では、「わかさいも」という名称を使ったのは、洞爺湖の店が最初でしょうが、作っていた製品については寿都の店が本家で、洞爺湖はいわばその分家です。

だから、“わかさいも本舗”の「わかさいも」が本物で、それ以外はバッチ物だ、というのは誤った見解です。

もちろん現在の製品は、明治時代のものとは異なり、各店それぞれのものを作るようになっているのかもしれないので、いまや本家議論をすることはあまり意味のないことかもしれません。
しかし洞爺湖という温泉地に立地したがために成長した分家が、自ら考案しつつも一族で用いていた商標を最後は独占した。そしてHPでは本家との関係は書かないでいる。そういうのはフェアではないと思います。


以下、関連情報のメモを記しておきます。

1.名称をめぐる争い

「昔、大学生のとき「商号使用」の研究で2社を取り上げ両社から話を伺おうとしたのですが、「わかさいも本舗」が拒否。「わかさや本舗」側からしか話が聞けなかったのですが、昭和38年に分裂し「㈱わかさいも本舗」を設立したみたいで、「わかさ」という商号の使用について争っているそうです。要するに名前も技術もパクリだそうです。元祖・本家本元は「わかさや」だそうです。」
http://blog.goo.ne.jp/fuekitty/e/fed829a2e2103f9412c4e6b2eee4e210

この「商号使用」の争いは、「わかさいも」という名称をめぐって3社が争ったことではなく、その後、「わかさ」を巡って“わかさいも本舗”と京極の“わかさや本舗”が争ったことです。

たぶん、かつて争った3社も、洞爺湖の“わかさいも本舗”、登別の“わかさ屋菓子舗”に加えて京極の“わかさや本舗”じゃないかと思います。

2.商標登録について

「諸研究」にも商標登録の紹介があるけど、ちょっとモレがあるので記しておきます。

(1)わかさいも
【商標登録番号】 登録0497958
【登録日】 昭和32年(1957)3月11日
【出願番号】 商標出願昭28-3501
【出願日】 昭和28年(1953)2月13日
【先願権発生日】昭和28年(1953)2月13日
【更新申請日】 平成18年(2006)11月9日
【更新登録日】 平成18年(2006)11月21日
【存続期間満了日】平成29年(2017)3月11日
【権利者】   株式会社わかさいも本舗

(2)わかさや本舗
【商標登録番号】 登録3127804
【登録日】 平成8年(1996)3月29日
【公告番号】 平7-40771
【公告日】 平成7年(1995)4月5日
【出願番号】 商標出願平5-10614
【出願日】 平成5年(1993)2月5日
【先願権発生日】平成5年(1993)2月5日
【更新申請日】 平成18年(2006)3月20日
【更新登録日】 平成18年(2006)4月4日
【存続期間満了日】平成28年(2016)3月29日

“わかさいも本舗”と京極の“わかさや本舗”が店名を争った結果、“わかさや本舗”が店名の登録を確保できたということでしょう。

 

(3)わかさっこいも
【商標登録番号】第4328193号
【登録日】 平成11年(1999)10月22日
【登録公報発行日】平成11年(1999)12月22日
【出願番号】 商標出願平10-642
【出願日】 平成10年(1998)1月7日
【先願権発生日】平成10年(1998)1月7日
【権利者】 株式会社わかさいも本舗

やっぱり「わかさっこいも」があったんですね。

どれかの店が「わかさっこいも」を製造販売していたんですけど、類似名で争い、その名を“わかさいも本舗”が使えなくしたんじゃないかと思います。
【追記】
コメントにあるように、「わかさっこいも」は登別の「わかさや菓子舗」だそうです。

 


 
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コメント 6

みっつう

わかさっこいもは、登別です。30年以上前によく行ってました。当時の経営者が遠縁でしたから。
by みっつう (2010-06-24 17:40) 

とんちゃん

みっつうさん

「わかさっこいも」は登別でしたか。
教えていただいて、ありがとうございます。
食べたことありますよ。
わかさ屋菓子舗が造っていたんですね。そうでしたか。

わかさいも本舗の「わかさいも」は、好きだったんですけど、今は、ちょっとヤダな、って感じです。
by とんちゃん (2010-07-11 15:42) 

旧北海道人

そういえば、わかさっこいもには、あげいもに相当するあげいもっこという商品もありましたね。
by 旧北海道人 (2011-11-29 23:00) 

とんちゃん

旧北海道人さん
「「あげいもっこ」ってのがあったんですか!

系譜のことは、ここに改めて書きました。
http://onhome.blog.so-net.ne.jp/2011-08-21

登別は、わかさいも本舗が出店して、それを親族に譲渡したけど、営業不振に陥って、わかさいも本舗が購入する形で、営業権を取得したようです。

by とんちゃん (2011-11-29 23:17) 

おじさん

わかさいも、あげいもが好きです。
東京の友人にわかさいも食べさせたら、人形町の壽堂の黄金芋に似ていると言われました、後日食べてみましたら外側にシナモンが塗されている以外はそっくりでした。中のあんも どっちが先なんでしょうね ^^
by おじさん (2023-01-31 17:39) 

とんちゃん

> おじさん さん
そういうのもあるんです。ありがとうございます。
壽堂の黄金芋、似ていますね。そっちの方が古いようです。
餡の主原料が「白いんげん豆」だそうで、わかさいもの「大福豆」と同じです。しかし皮の作り方など違っているようです。わかさいもの特徴、昆布で作った繊維は入ってないようですね。
by とんちゃん (2023-02-01 07:14) 

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